昨年の暮、「文学講座」を終えた私は、忘年会の席で不覚にも酔いつぶれた。救急車で阿佐ヶ谷の病院にかつぎ込まれて、「文学講座」は中断した。
どうもみっともない話で、以来、身をつつしんでいる。
これ以上、みなさんに迷惑をかけるわけにもいかないし、私自身も「文学講座」をつづける意欲を失っている。年末をもっていよいよ大団円ということにあいなった。
9月の「最終講義」のあと、親しい人たちが残って、ひさしぶりにつつましい会食をしたためた。これは楽しかったね。
つわものどもの交わり頼みある中の酒宴も、さこそ楽しきことなるべけれど、酒なく、茶なく、わけもなきまどい(団欒)も、主客を忘れし旧知のひとびとの集まりしほど、世に興深きことはない。
みなさんの好意が身にしみた。
話題は、残暑のきびしさ。地震の被害。放射性物質の拡散の風評。汚染の除去。
「いかがでしたか、先生の震災被害は?」
「書斎や、本をしまってある書棚の本がずいぶん崩れ落ちてね」
「おやおや、たいへんでしたね」
「もともと本箱の前にも本を積み重ねて置いてある。そこに、本がドサッと落ちてきたから、今ではどこに何の本があるのかわからない」
「仕事にさしつかえがありますね」
「いや、仕事なんかしていないから、本がゴチャゴチャになってもそのまま放ってある。たまたま本も読まなくなったし」
みんなが、あきれた顔をする。
もし、私に才能と、時間の余裕があったら――「オレンジだけが果物じゃない」みたいな小説を書きたい。岸本 佐知子訳。白水社/Uブツクス。
岸本 佐知子の訳はほんとうにすばらしい。