「レンガ」は、戦後すぐに有楽町で息を吹きかえした喫茶店だった。
日比谷、有楽町界隈の映画館のすぐ近く。階下は映画を見に行くカップルたちの待ち合わせの場所だったが、階段をあがって、二階は客種もちがってなんとなく雰囲気が変わっていた。戦後すぐに、私は「時事」の椎野 英之に渡す原稿をいつもここで書いた。椎野は、この喫茶店で、しばらく雑談をしたり、いろいろな人に紹介してくれた。
二十年近く「レンガ」に通いつづけた。私が立ち寄る時間はだいたいきまっているので、友人たちや編集者たちも「レンガ」で私を待っているのだった。
その後、有楽町界隈にもいろいろな喫茶店ができて、「レンガ」は「ジャーマン・ベーカリー」に変わった。「ジャーマン・ベーカリー」にも十年以上通った。
きまった店にしか行かないので、ひどくcompulsiveな性格に思われそうだが、別の店に入って自分の気に入るかどうかわからない。だいいち、めんどうくさい。
いまは、「ジャーマン・ベーカリー」もなくなってしまったので、有楽町にも行かなくなった。