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エキム・タミロフ。アメリカの映画俳優。もう誰もおぼえていないだろう。もともと有名なスターではない。1898年、ロシアのバクー生まれ。1923年、「モスクワ芸術座」の一員として巡業。そのままアメリカに亡命。英語がまったくしゃべれなかった。映画はまだトーキーになっていない。
ハリウッド・デビューは「愛の悪魔」。「ベンガルの槍騎兵」(1935年)で、ようやく注目された。私などが彼を知ったのは、戦後最初に公開されたディアナ・ダービンの「春の序曲」や、イングリッド・バーグマン、ゲーリー・クーパーの「誰が為に鐘は鳴る」あたりから。
なにしろ背が低く、ずんぐりして、風采があがらない。ひどいロシア訛り。卑怯で、気が弱いくせに押しのふとい、こずるい役が得意だった。
60年代、クロード・シャブロル、オーソン・ウェルズの映画で、大きくバケた。人生、何が起きるかわからない。1972年、パームビーチで亡くなったとき、彼を偲んでワインをあけた。こんなファンもいるのである。