福島原発のニュース。
死者、1万4001人。行方不明、1万3660人、避難者、13万6127人。(4月19日午後6時、警察庁調べ)
この大震災で、検視した死者、1万3195人のうち、津波による死者が、92.5パーセント。身元、年齢が判明した犠牲者の65パーセントが60歳以上。
つまり、高齢者の犠牲が大きい。
東京大空襲の記録では、60歳以上の高齢者は、自宅から150メートルの範囲で死亡していたという。若者では、自宅から4.5キロの距離まで逃げて、落命した例がある。
福島原発。2号機の汚染水、4月1日~6日の流出、総量、520トン。
放射性物質の量は、4700テラ・ベクレル(1テラは、1兆という)。
4月21日、このニューズを読んだとき、私は心の底から憤りをおぼえた。この事実を、東電や、原子力安全保安院は、なぜ今まで伏せていたのか。
4月1日から6日の時点で、この恐るべき事態はすでに判明していたはずである。それなのに、2週間もこの事実を伏せていた。
その間に、統一地方選挙があったから(その影響をおそれて)伏せたのではないか。
私は激怒している。まず、これを報じた大新聞について。
「読売」は、この記事を一面でとりあげている。ただし、下の4段目、わずか2段、32行という短いあつかいだった。その記事の末尾に――「深刻な数値」という見出しで、2面であつかっていることが出ている。
その2面の記事は、34行。2行の小見出しに――
「4700兆ベクレル」大気放出の尺度でレベル5から6相当
とある。(「読売」4月22日/朝刊)
大震災以後に書かれた無数の記事のなかで、日本のジャーナリズムがとった、もっとも陋劣(ろうれつ)で、もっとも「悪しき行動」の最たるものの一つ。
なるほど、この記事は事態の「深刻さ」をきちんと報道しているように見える。しかし、実際は、事態の「深刻さ」を国民の眼からそらすように工夫されている。
この2面の記事には、放射性物質による汚染の例として、1950年代から80年代にかけてのイギリス、セラフィールドの汚染水の海への放出(9000兆ベクレル)、また、1952年~92年におよぶ極東海域におけるロシアの汚染物質の日本海への投棄の事例もとりあげてある。
私は怒っている。「4700兆ベクレル」という記事は、1面のトップに出すべきだったといいたい。1面のトップに出したのは――20キロ圏「警戒区域」設定 一時帰宅 数日中に開始 という記事だった。もう一つは、「節電目標15パーセントに緩和 政府調整 大企業・家庭に一律」という記事だった。
いずれも重要な記事にはちがいない。しかし「20キロ圏」に「警戒区域」を設定しなければならない事態は、4月6日に判明していたのではないか。
それなのに、「さしあたって人体に影響をおよぼさない」と強弁しつづけたヤツがいたのではないか。
私が、かつての大本営(松村秀逸、平出孝雄両大佐)の発表を思い出していたのは、けっして偶然ではないのだ。彼らは、いつも陸海軍の被害にはふれなかったし、ふれたとしても「わが方の損害は軽微なり」として、頬かむりしつづけた。この連中を、日本人としてまったく恥を知らない最低の人間と見るように、私は、東電、および原子力安全保安院、さらに政府の当局者に侮蔑の眼をむけざるを得ない。
(つづく)