いきなり美しいアルプスの大自然が壮大な姿をあらわす。映画のフェイドイン。
映画史上はじめてといっていい空撮だった。思わず息をのむような山脈の流れがつづいて、山頂の高原にフォーカッシングする。その広大な原っぱに、美しい歌声が響いて……
主役の「マリア」(ジュリー・アンドリュース)のアップになる。
こうした空撮のフェイドインは、その後、「シャイニング」や、韓国ドラマの「オール・イン」、最近では、大河ドラマ「天地人」のオープニングまで、ごくふつうのものになっているが、「サウンド・オブ・ミュージック」のオープニングが見せた迫力は忘れられない。
この映画に主演したジュリー・アンドリュースは、ブロードウェイで、「マイ・フェア・レイディ」で空前の成功をおさめて、映画界入りをした。出演作品は、いがいなほど少ないが、ミュージカルだけでなく、ストレート・プレイでも成功した。
映画スターになったら、どうなのかって?
あたしは、しょっちゅう親指を吸ったものよ。
さすがに、大女優らしいことばだと思う。
なんでもないセリフだが、別な読みかたもできる。
ジュリーより少し前の映画女優、ジューン・アリソンのことば。
わたしは、いつも映画スターになりたかった。
有名になれるし、ベッドで朝食がいただけるから。
まさか、午前4時に起きなきゃいけないなんて知らなかった。
ジューン・アリソンは、戦時中から「戦後」にかけて、青春スターの代表といってよかった。ジュデイ・ガーランドと交代して、ミッキー・ルーニーのハイティーンの学園ものに出たり、やがて、ピーター・ローフォードなどを相手に、天真爛漫な女子大生をやっていた。
たくさんの映画に出ている。
しかし、ジュリー・アンドリュースと違って、代表作といえるものはない。おそらく「若草物語}(1949年)、「グレン・ミラー物語」(1954年)ぐらいだろうか。
ほとんど失敗作がなかった。誰からも愛されてそれでいて、一流のスターでいながら、代表作といえるほどの作品がない。スキャンダルも、なかった。
こういう女優さんの内面を想像することはむずかしい。
ただし、「まさか、午前4時に起きなきゃいけないなんて知らなかった。」ということばも、別な読みかたもできる。
午前4時に寝なきゃいけないなんて知らなかった、というふうに。