西島と私は思わず顔を見合わせていた。
ひょっとして、新手のストリート・ガールだろうか。一瞬、私は思った。
「どうしたの?」
西島が訊いた。
「家に帰れなくなったんです」
「遊びすぎたのか」
「そうじゃなくて、家に帰りたいんだけど、お金が足りなくなっちゃって……」
「おれたち、これからどこかに行こうかと相談してたとこなんだ。きみたち、ついてくるかい」
すかさず、美少女がコックリした。
「どうする?」
西島に聞かれて、私はひるんだ。へんなことにまき込まれやしないか、と警戒心が先に立った。
「ねえ、いいじゃない」
美少女がつれの事務員のような女の子にいった。私はその娘をみた。眼と眼があった。一重まぶたのぼってりした眼をして、その眼に何か切迫したものがあった。
「お兄さんたちも帰りの電車、ないんじゃないの?」
美少女がいった。
あらためて顔を見た。やはり美少女だった。目鼻だちのととのった、可愛い顔をしている。当時、西島が好きだったのは、小柄で、動作のキビキビした、お侠なタイプ、たとえばヴェラ・エレンのような女優だった。西島はこういう美少女が好きなのだった。
1時間後に、私たちは道玄坂の奥の和風旅館にいた。
隣りの部屋に西島が美少女と、私は事務員ふうの女の子といっしょに泊まった。私は、芝居のことが頭から離れなかったので、女の子を抱く気分ではなかった。
となりの部屋であの女の子がせつなげな声をあげはじめた。すると、私の隣りに寝ている女の子が、黙って私の上にのしかかってきた。
My wicked、wicked days.
何十年もたった現在、まるで夢のなかのできごとのようにこの夜のことを思い出す。
(つづく)