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震災で、私もひそかに覚悟をきめた。
さしあたって身辺の整理をはじめよう。これまでにも、多数の蔵書を整理してきたが、まだ残っている本が多い。書棚におさまりきれずに積みあげてあるのだが、この地震で崩れて散乱した。もっとも、たいして価値のある本はない。
揺れがおさまると、すぐに積み直すのだが、余震のたびに崩れてしまう。

もともと乱雑に積んであったのだから、どこが被害を受けたのかわからない。
本の整理をしていると、書きかけの原稿、ヘタクソなデッサン、いちおう描いた絵などが出てくる。未発表の長編が出てきたが、読み返す気にならない。そのまま焼き捨てた。
田栗 美奈子がお見舞いの電話をくれたので、そのことを話したら、ヒェーッと悲鳴をあげた。
どうせ、くだらない作品だから、焼き捨ててもいい。
そういうと、美奈子ちゃんは、
「そんなことをなさるのなら、私が預かっておきます」
という。
私は笑ってしまった。

今度の震災で、いろいろなものが失われてしまった。罹災者の人々にとっては、かけがえのないものだったに違いない。
それに較べて、私の原稿などは、そもそも存在する意味も価値もないものばかり。別に惜しいものでもない。

今も、本を片づけているうちに、昔、描いた絵のごときものが出てきた。いずれ焼き捨てるつもりだが、ほしい人がいたらさしあげてもいい。いや、誰もこんなものをほしいとは思わないだろう。
仕方がない、焼き捨てるか。

これから、時代は大きく変わるだろう。そうした変化をしっかり見届けたい。
このブログは、社会の片隅にひっそりと生きている老作家のつぶやきにすぎない。ただし、まだまだ見るべきほどのことを見てはいないのだ。