尾上 菊五郎(六代目)、市村 羽左衛門(十五世)を見ている。
羽左衛門なら、「助六」、「切られ与三」、「直侍」、「石切梶原」。六代目なら「八重垣姫」がまっさきに眼に浮かんでくる。
私の祖母は小芝居の「寿座」がご贔屓だった。あまり都心に出ることもなくなっていたが、六代目を見ちゃあ、ほかの芝居は見られないねえ、といっていた。そのかわり羽左衛門が好きではなかった。
あんな細っこいのが、甲高い声を出して、のたくりつんで出てきて、どうなろうってンだい、と悪口をいう。
ふだんは仲がいいくせに、芝居話になると、母はやけにムキになって、
そんな棚おろしのほうは、もう大概にしてちょうだい、と反論する。
1945年、羽左衛門が亡くなって、戦後の私は歌舞伎にかわって新劇ばかり見るようになった。六代目が亡くなってからまた見るようになったのだが。