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高津 慶子という女優がいた。私は高津 慶子のファンだったけれど、あまりに幼い頃に見たので、彼女の顔も思い出せない。

経歴は、少しだけ知っている。

1929年(昭和4年)、17歳で「松竹楽劇部」に入った。この年(昭和4年)7月、「帝キネ」に移る。おそらく「恋のジャズ」という無声映画が、最初の出演作ではないだろうか。

初めての「恋のジャズ」の試写を初めて見た時は、何だか変な気持でしたわ。
自分はこっちにゐるのに、向ふでは別の自分が動いてゐますでせう。そして、
あそこではかう動いたのにと思ってるのに、変な風に動いてゐますし……
ほんとに、踊る幻影といった気持ですわ。
彼女はちょっと眼を細くして、その当時を思ひ出す。

当時のインタヴュー記事から。

1930年、19歳で、「腕」という映画に主演している。このあたりから、トップスターになった。

高津 慶子は藤森 成吉の傾向小説、「何が彼女をそうさせたか」に主演している。傾向小説というのは、プロレタリア文学のこと。
パート・トーキーにする企画だった。

偶然だが、私は高津 慶子を2、3本、見ている。
題名もわからないのだが、河津 清三郎と共演した映画では、愛する男が失業し、別の女のもとに走ったため苦しみぬいて、最後には男と心中して果てる女をやっていた。お涙頂戴のメロドラマだった。小学生の私は、美しい高津 慶子が不幸なまま人生を終えてしまうその姿に戦慄した。そして、彼女をさんざん苦しめたあげく、まるで無理心中のようなかたちで死んでしまう河津 清三郎がきらいになった。

はるか後年、高津 慶子の写真を見て、もう忘れていた顔を思い出した。今の女優でいうと、水野 美紀にかなり似ている。私は、舞台劇『ユートピアの彼方へ』で見ていらい水野 美紀の熱心なファンなのである。

自分の感性をずっと遡って行くと、高津 慶子と森 静子が浮かんでくる。
この二人の女優が好きだったことは、ひょっとすると、その後の私の女性観になんらかの影響をおよぼしているかも。(笑)