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最近の私は、あまり笑わなくなった。
いろいろな理由がある。

女がいう。
「結婚するのは、お互いに理解しあって、愛しあうようになってからにしましょう」

男はいう。
「まず結婚して、理解しあい、愛しあおう」

たいていの恋愛は、この食い違いをめぐっての喜劇である。見ていて、おかしな喜劇だから笑いを誘う。ときには、生涯をつうじての悲劇になる。
これは、見ていてつらいだけだ。まして、当事者だったら、どんなに後悔したところで、幕が下りるまでは終わらない。

女がいう。その眼が不安そうな色を帯びている。
「結婚するのは、お互いに理解しあって、愛しあうようになってからにしましょうね」
男はいう。
「まず結婚して、理解しあい、愛しあおう」

そういわずにはいられなかった。内面の深い底に、冷たい石のような不安が有るのを感じながら。

ある小説の一節。作家は、アメリカの有名な作家。

いつだったか、アダルトもののDVDを見た。テレビのリポーターを装った男が、繁華街で若い素人の娘をつかまえて、ホテルにつれ込む。
若い女は抵抗らしい抵抗もせずに、脱がされてしまうのだが、
「セックスするのは、お互いにもっとよく理解しあって、愛しあうようになってからするものよ」
といった。
ハンディカメラで撮影しながら男は、
「まずセックスして、お互いに理解しあったり、愛しあったりするんだよ」
といった。

私は思わず苦笑した。