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シェイクスピアの詩で思い出したが、昔は、黒は美しい色ではなかったらしい。

In the old age black was not counted fair,

つまり、(シェイクスピアが若かった頃)、黒は美しい色ではなかった。少なくとも、美人の色ではなかった、ということ。

しかし、今では、黒だって、美の後継者になれるおかげで、美 Beauty が、無残にも恥ずかしさ bastard shame にかられている。

シェイクスピアの「恋人」Mistress の眼は、鴉のように黒い。

黒が女性美を際だたせるようになったのはいつ頃からなのか。
ファッション史を調べれば、だいたいの見当がつくだろう。では、現代の「黒」が女性美を際だたせるようになったのはいつからなのか。
「マネ展」を見に行って、「ベルト・モリゾ」や「オランピア」を見ながら、19世紀末のパリ・ファッションの「黒」に心を惹かれた。

私は黒いファッションをみごとに着こなしている女性を知っている。

無声映画のスクリーンでは白と黒のコントラストは、早くから強調されていたが、無声映画に登場する女性美を「黒」が強調するようになったのはいつからなのか。
たとえば、第一次大戦の「戦前」の、フランス美術、とくに「サロン」の女性のヌードに、「黒」はほとんど見られない。
これが、劇的に変化したのは――おそらく、フランスの女優、ジョゼット・アンドリオが、全身に薄い黒のシルクをまとって登場した1919年からだった。つまり、第一次大戦の「戦後」、私たちは、はじめて女性のヌードを隠蔽し、しかもエロティシズムを強調するパラドクサルな時代に入った、と見ているのだが。

これからフランス官展、「サロン」の女性ヌードを研究してみようか。