昔、同人雑誌の批評をつづけていたせいか、今でもときどき知らない方から、創作集などをいただく。かならず眼を通すことにしていたが、ちかごろはさすがに疲れてきた。
「文学書を読むとき、文体の外見に感心するのは阿呆の習性である。」
スタンダールのことば。私の批評上の心得のひとつ。
「はっきりした思想が単純な文体で述べられている本だと、これはちっともうまく書けていないという。そのくせ、誇張したいいまわしには、手放しで大喜び。こういうのが、成りあがりの田舎者なのだ。」
すぐにつづけてのスタンダールの痛烈な言葉。これもすごい。
こういう連中は、たとえば、
「私の心の中に冬がある――私の魂の中に雪が降る」
といったたぐいの文章に感心する。
ただし、スタンダールと違って私は、たとえば流行歌の作詞家が、
「私の心の中に冬がある――私の魂の中に雪が降る」
といったたぐいの歌詞を書くことに賛成する。
大衆にウケなければならないからだ。