昔のゴシップ記事を読む。
エロの総本山、イットの元祖、クララ・ボウが肥り過ぎて、近頃、とんと売り物
のイットが発散しなくなったので、何とかして痩せたい痩せたいと苦労している
ことは皆様ご存じの噂。
ところが、わが国でも、肥り過ぎて困っている女優は沢山ある。
日活の夏川 静江、ますますポチャポチャと円くなり、マキノの大林 梅子、む
くむくとふとり、蒲田の新進、伊達 里子もまた脂肪分充満して、おのおの「痩
せたいわ痩せたいわ」と嘆いている。
蒲田の栗島 すみ子も、先ごろまで肥って困るとこぼしていたが、某博士発明の
「痩せ薬」を常用し初めてからメキメキと、痩せだし、近ごろではなよなよとし
たすみ子独特の美しさを発揮し出した。
女優連中が、すみ子を取り巻いて、
「まあ、羨ましいわ、その痩せる薬を教へて頂戴よ」といってるところへ、通り
かかった八雲 恵美子、その話を聞いていたが、やがてホッと一つ息をして行っ
てしまった。
無理はない、八雲 恵美子の念願は、「何卒神様、私を肥らせ給え」であった。
やせるもふとるも神のみこころ、こればっかりは、スター諸嬢にもままならぬと
見える。 (「サンデー毎日」昭和5年11月2日号)
別にコメントする必要もない。
こんなゴシップ記事に興味をもつのは、この程度の内容でもじつにいろいろなことがわかるからである。
栗島 すみ子は日本のサイレント映画を代表するスターだった。この昭和5年3月、「日活」は、藤原 義江主演で「ふるさと」で、トーキーに先鞭をつけた。つまり、栗島すみ子の時代は、確実に終わりを告げていた。
夏川 静江は、スターの地位はたもったが、マキノの大林 梅子、蒲田の伊達 里子もスターの座を去ってゆく。
世界的な大不況の影響もあって、昭和5年から7年にかけて、日本の映画界は激動の時代を迎えていた。撮影所だけでなく、映画館でも争議が続出している。
昭和5年、日活で撮影中の映画の題名は「娘尖端エロ感時代」。
一方、日本で公開されたハリウッド映画は、「アンナ・カレニナ「(グレタ・ガルボ主演)、「リオ・リタ」(ビーブ・ダニエルズ主演)、「ジャズ・シンガー」(アル・ジョルスン主演)、「ラヴ・パレイド」(モーリス・シュヴァリエ、ジャネット・マクドナルド主演)。「ブロードウェイ・メロデイ」(アカデミー賞作品賞)など。
優劣の差ははっきりしていた。