私は多代さんのファンだが、全部が全部いい句ばかり、等と思っているわけではない。
六月や 泊りからすは 山へ行く 多代
短夜や 雨水澄んで 有明る 多代
夏の夜や かねなき里のおもしろさ 多代
「かねなき」は、鐘も鳴らない鄙びた里ということだが、不況で過疎になってしまった里かも。おもわず、笑った。
あふき立て 鳴りの止まぬや 競馬 多代
これも、今の競馬を連想して、多代さんは馬券を買ったのか、などと連想して、われながらあきれた。
差し上る日を 屋根越しの 幟かな 多代
これも、いい句のように見えながら、なんとなく納得しがたいところがある。
しかし、おなじ更衣を詠んでも、千代の、
脱ぎ捨ての 山に積るや 更衣 千代
日はしたに 休む大工や 衣かへ 多代
あらためて 松風ききぬ ころもかへ 〃
私が、多代さんを推賞する理由はわかってもらえるだろう。
蝶々や 女子の道の後(あと)や先 千代
蝶々や 何を夢みて 羽つかひ 〃
よりも、おなじ多代さんの句に、
春の雁 笠着るうちに 遠くなる 多代
日の晴れや 幾度も来る おなじ蝶 〃
昼船や さそわぬ蝶の ついてくる 〃
のほうがいい。