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月に一度、小人数の寺小屋で英語のテキストを読んでいる。
生徒たちがテキストを訳して、私が指導するグループ。生徒たちは優秀だが、先生のほうは老いぼれGさんである。

この寺小屋は、だいたい八丁堀のちっぽけな区民館でつづけられている。

誰も知らないことだが、八丁堀には小林一茶の庵があった。

うめ咲くや くてうむこうに鳴く雀
梅さくや ちるや附たり 三日月
うめ咲くや 現金酒の 通帳
うめの花 家内安全と咲きにけり
梅が香や 知った天窓の 先月夜

よく調べたわけではないが、一茶は八丁堀でこうした句を詠んだらしい。どれも、あまり感心できない句ばかり。
私の好きな一茶の句は、もう少し違うものである。

生き残り 生き残りたる寒さかな
合点して居ても 寒いぞ 貧しいぞ
しんしんと しん底寒し 小行灯(こあんどん)

自分の姿を見て、

ひゐき目に見てさへ 寒き そぶりかな

東(関東)に下ろうとして途中まで出て、

椋鳥と 人に言はるる 寒さかな

箱根、六道の辻と題して、

寒そらに はなればなれや 菩薩たち

はなれ家や ずんずん別の寒の入り
雨の夜や しかも女の 寒念仏
降る雨の中にも 寒の入りにけり

一茶の辞世も紹介しておこう。

ああ ままよ 生きても亀の 百分一

ところで、私の八丁堀の私塾だが、私は何を教えているわけでもない。ほんとうは、心優しい生徒たちが、月に一度集まって耄碌Gさんの相手にしてくれる集まりなのである。