(つづき)
私の「フリッツイ・シェッフ」が掲載された雑誌、「SPIEL」6号(1995/7)のページをめくったとき、これを読んだ人のメモが見つかった。
「SPIEL」をありがとうございました。大変シックな雑誌でスカッとしています。中田さんのお作「まぼろしの恋人」にはびっくり仰天、言葉も出ぬくらい感動しました。
それについては、ゆっくり感想を書かせていただきます。
それから、この雑誌の編集者、福島礼子さんの知性にも驚きました。「未来のイヴ」は大変な知的産物です。
女というのは、大抵はバカが多いのですが、この人は違います。中田さんのお許しを得て、その人にお手紙を差し上げたいと思っております。この人の書いたものをもっと読みたいのです。ぼくはどうもアケスケとものを書くので、人にいろいろいわれます。おゆるしください。
それにしても、中田さんのオペラ通には目を丸くして、肝を冷やしました。この作品、傑作で心に残ります。
これを書いたのは、作家の宮 林太郎さんである。
私が驚いたのは当然だろう。生前の宮さんが私にあてた手紙が、ゆくりなくも14年後に私の手に届いたのだから。
こういうこともあるのか、と、しばし茫然とした。
私にあてた手紙だということは間違いない。私が宮さんにあてたハガキが入っていたからである。
宮さんは手紙を書く前に、メモをとる習慣があったらしい。
つまり、これとおなじ内容の礼状を清書して、私に送ってくださったのではないかと思う。
メモは、ほかに3枚あって、その1枚も、手紙の下書きらしい。
話の順序として、私が宮さんに送ったハガキの内容を掲げておく。
宮 林太郎様
こんなものを書きました。お読み頂ければ幸甚です。
去年から書きはじめた評伝は、やっと三分の一、七百枚になりました。もう少し頑張ろうかと思っています。
暑くなりそうです。
どうかお元気で。
日付は、1995年7月12日。
「去年から書きはじめた評伝」は、『ルイ・ジュヴェ』だが、これを書いていた時期の私は、それこそ悪戦苦闘していたのだった。
(つづく)