(つづき)
「週刊朝日」(1945年3月18日号)。定価、二十銭。
短歌の選者は、斉藤 瀏。戦時中に威勢がよかった歌人。
自転車の姑娘続くうららかさ北京の春は今さかりなり
これは中支派遣軍の兵士が寄せたもの。
隊長の机の上に戦友等つぎつぎ置き去る遺言の包
これは傷病兵が詠んだもの。
俳句の選者は、富安 風生。
菊咲いて日本晴のビルマかな
これも傷病兵が詠んだ俳句。
連載小説は、山岡 壮八の『寒梅賦』。南方の前線基地で、航空隊の特攻を指揮した海軍の提督、有馬 正文中将伝。見開き、2ページ。
この号の映画広告は、2本。
黒沢 明の「続 姿三四郎」。前作、「姿三四郎」とキャストはおなじだが、比較すべくもない凡作だった。広告の大きさは、タテ 4センチ2ミリ、ヨコ 6センチ6ミリ。
もう1本は、佐々木 康監督の「乙女のゐる基地」。松竹映画。近日封切。
笠 智衆、佐野 周二、東野 英治郎、原 保美、水戸 光子ほか。
「大空の下 愛機の整備に打込む 戦ふ女性の凛烈の気迫! 決戦女性の生活指標を描く!」
広告のサイズは、タテ 6センチ、ヨコ 8センチ。
私はこの映画を見ていない。3月10日の空襲で焼け出されたため、まったく無一物のまま、学徒動員で川崎の工場に通わなければならなかった。生きるのがやっとという状況で映画を見るどころではなかった。
紙質がひどくわるい週刊誌を手にする。ひたすら敗戦にむかって崩れ落ちてゆく時期の日本の姿が透けてみえる。
この週刊誌を手にする私の内面には、けっして消えることのない思いがえぐりつけられている。