こんな投書を見つけた。ある婦人雑誌(昭和4年12月号)から。
今年四月高女を卒業したもの、映画女優志願。家にいて手続できますか。金は沢山入用ですか。会社は。 (滋賀県、京子)
「婦人立身相談」。回答者は答えている。
本欄としては初めての御質問です。これは天分と容姿の問題で、私が会社側の立場としていへば、身長五尺二寸以上、容姿普通以上、健康にして労働を厭はず演芸に趣味を有し研究心ある者ならば合格線に近いわけです。ただ単なる憧憬なら不賛成。家人によく相談して御覧なさい。会社にして堅実なるものは日活、松竹共に第一流ですが入社は困難でせう。かうした会社で時々臨時雇を募集することあり、その節テストに応じて見こみがなかったら諦めることです。
映画スターを夢見た京子さんは、きっと美人だったのだろう。ただし、「天分と容姿」ということになれば、ごくありきたりの「美人」では通用しない。
京子さんは「家人によく相談した」のだろうか。「ただ単なる憧憬なら不賛成」どころか、その不心得を説諭されたにちがいない。
容姿に関して、身長五尺二寸というのも、当時の女性の平均をこえていたレベルなのだろう。体重は? 私としては知りたいところだが。
さて――日活、松竹のその後を知っている私たちには、露槿すでに秋を傷(かな)しむ思いがある。
金は沢山入用ですか。これには返答のしようがない。だから答えていないのだろう。
この1929年、サイレント映画はまさにトーキーと交代しようとしていた。
一つの芸術の決定的な消滅と、別の表現形式の登場だったが、その衝撃の大きさにまだ誰も気がつかない。
当時、最高の人気を誇っていたメァリ・ピックフォード、コリーン・ムーア、グローリア・スワンソン、ビリー・リリー、クララ・ボウといったスターたちも、はげしい運命の転変を経験しようとしている。
「婦人世界」は、ハリウッドのスターたち、13名を紹介している。
アドルフ・マンジュウ、ジャッキー・クーガン、ジョン・ギルバート、ゲイリー・クーパー、バスター・キートン、リチャード・アーレン、マリア・ヤコビニ、ジャネット・ゲイナー、フェイ・レイ、ビリー・ダヴ、ドロレス・デル・リオ、クライヴ・ブルック、メリー・ブライアン。 (つづく)