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ナタリー・ウッドは、(子役のときから、将来を期待されて、いくつもの試練に耐え抜いて、最後まで残った)スター女優だった。チャイルド・スターから、トップスターになったという意味で、ジュデイ・ガーランド、エリザベス・テイラーに似ている。
しかし、子役としてのキャリアーは、ジュデイや、エリザベスほど、恵まれていたとはいえない。

十代の彼女は、「理由なき反抗」(55年)でジミー・ディーンの相手役に抜擢されて、やっとスターレットとして認められたような印象がある。
それだけに、「初恋」(58年)のナタリーは、ひそかに期するところがあったに違いない。
原作は、当時、流行作家だったハーマン・ウォークのベストセラー小説、『マージョリー・モーニングスター』。

演劇志望の女子大生「マージョリー」は、友だちの「マーシャ」といっしょに旅行している。美しい湖畔で、演出家、作曲家の「ノエル」(ジーン・ケリー)と、アシスタントの「ウォーリー」(マーティ・ミルナー)と会う。
いかにも知的で、芸術家の「ノエル」に夢中になった「マージョリー」は、舞台の照明をてつだいながら、清純な慕情を育ててゆく。
しかし、「マージョリー」の想いを知りながら、「ノエル」は以外にも、冷たく突っ放す。はげしく傷ついた「ノエル」をいたわるのは、「ウォーリー」だった。……

大学を卒業した「マージョリー」の前に、また「ノエル」が戻ってきた。一方、「ウォーリー」は劇作家として輝かしく成功していた。以前にもまして心を寄せる「ウォーリー」に対して、何者でもない自分を恥じた「マージョリー」は姿を消す。

やがて、友だちの「マーシャ」は、富裕なプロデューサーと結婚する。その式場で、「ノエル」と再会した「マージョリー」は、「ノエル」がブロードウェイで失敗したことを知る。彼女は、「ノエル」を力づけ、またショーの演出にもどらせようとする。その初日がすんだら、彼と結婚しようと決心するのだが……。

ジーン・ケリーがミス・キャスト。ダンスの名手だったジーン・ケリーは、「錨を上げて」(45年)、「三銃士」(48年)、「私を野球に連れてって」(49年)、「巴里のアメリカ人」(51年)、「雨に唄えば」(52年)などの作品で、一流のスターだった。
これに対して、ナタリー・ウッドは、「三十四丁目の奇跡」(47年)の子役から、「理由なき反抗」のティーンネージャー、「捜索者」(56年)のインディアンに育てられる白人の少女といった役のあと、シャーリー・テンプルや、デイアナ・ダービンとおなじように、女優として成熟した女性の魅力を出せるかどうかという「問題」に直面していたように見える。
ナタリーは、「草原の輝き」まで、もうしばらく混迷をつづける。

1958年、日本では、「悲しみよこんにちは」が公開され、ジーン・セバーグのセシール・カットが流行した。小津 安二郎の「彼岸花」に、山本 富士子が出て、有馬 稲子、久我 美子と共演した。三島 由紀夫の『金閣寺』が市川 雷蔵の「炎上」として、映画化された。石原 慎太郎が「若い獣」を監督している。