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少年はいう。

「わかってくれるかい。今朝起きてみると、太陽が輝いていて、なにもかもがきらめいているみたいで、すっごく気もちがいいんだ。そして、いちばんはじめに会ったのが、きみなんだ。で、思ったのさ、今日は素晴らしい日になるぞ、きっと。こんな日は、思いっきり生きなきゃ。明日なんて、ないかも知れないから。
わかるだろ、オレは、すんでのところで、明日をフイにしちまうところだったんだよ。」

映画、「理由なき反抗」の、ジェームズ・ディーンのセリフ。チキン・レースのあと。
チキン・レースは、二台の車を並べて、同時に崖に向かって走らせる。断崖の近くまで疾走するのだが、おじけづいて、早く車から飛び下りたほうが負け。「チキン」は、臆病者という意味だろう。
映画では、競争相手が死んだあと、「ジム」(ジェームズ・ディーン)が「ジュデイ」(ナタリー・ウッド)にいう。
つぎの日の夜、ふたりは、荒れた廃屋の庭で会う。

ジュデイ 愛するって、こういうものかしら。
ジム  オレにもわからない。
ジュデイ 女って、どんな人をもとめると思う。
おだやかで、自分がやさしくしてあげ
られるひと。
こっちがもとめるときに、肩透かしを
くわせないひと。
ジム  オレたち、きみもぼくも、もうさびしがら
なくて、いいんだよな。
ジュデイ あたし、愛しているのよ。いつも、あたし、
愛してくれる人を探してたけど、いまは
あたしのほうから愛してる。
それが不思議なくらい。やさしくできるの。
なぜかしら。
ジム  オレ、わかんないよ。オレだって、そう
なんだもの。

ジェームズ・ディーン(1931-1955)は、戦後アメリカの伝説的なスターだった。彼の出た映画としては、「エデンの東」、「理由なき反抗」、「ジャイアンツ」の3本だけだが、この3本だけで映画史、映画スター史に残るだろう。
彼が登場した時代は、映画産業が圧倒的な優位に立っていた時代だが、TVが普及して、時代に変化があらわれはじめていた。かんたんに要約すれば、暴力、犯罪、ドラッグ、セックスなどに、絶大な関心が寄せられることになる。当時のスキャンダラスな世相は、当時のエクスプロイテーション・マガジンの驚異的な隆盛からも想像できるだろう。

ジェームズ・ディーンの死は悲劇的だった。ナタリー・ウッド(1938-1981)の死もまた。

「理由なき反抗」は、それほどすぐれた映画ではない。しかし、それだけで時代を表現するセリフがあったればこそ、私たちの心に残った。
「ジム」と「ジュデイ」の、ちょっと舌ッ足らずな、愛のことばのやりとり、ヴァーバル・ウーイングが新鮮に聞こえた。ジェームズ・ディーンもナタリー・ウッドも、時代の一瞬の輝きとして、私たちの心に残ったということなのだ。