前から探していたものを偶然見つける。これはうれしい。古書なら、掘り出しものを見つけたとき。
つい最近、香港映画のビデオを見つけた。いまはもう誰も見ないようなビデオなので、掘り出しものといえるほどではない。作品もいわゆるB級、あまり自慢にはならないが、それでもこれを見つけて、内心ひそかに掀舞した。
かなり前に、神保町のアジア映画専門のビデオ屋で見つけたときは、じつに法外な値がついていた。驚きあきれたが、同時に怒りさえおぼえた。いらい、この店には二度と足を向けなかった。
たかが、古本1冊、古ビデオ1本、人の一生に何ほどのかかわりがあろうか。その1冊を読まなかったからといって、おのれの生きようが変わるはずもない。古ビデオ1本見たからといって、自分が見てきた映画に、どれほどのプラスになるだろうか。
だが、そう思う人はついに私の友ではない。
私が見つけた映画は、今はもう誰も知らない香港映画の1本。徐 克(ツイ・ハーク)の旧作、「刀馬旦」(1986年)。
主演は・・・「夢中人」、「恋する惑星」の林 青霞(ブリジット・リン)、「プロテクター」、「上海ブルース」の葉 倩文(サリー・イップ)、「五福星」のチェリー・チャン。
清国が崩壊して、軍閥政権がつぎつぎに交代するなかで、軍閥の将軍の娘の身ながら革命運動に身を挺する娘、革命さわぎに巻き込まれる京劇の一座の経営者の娘、何も考えずに北京に出てきて、予想もしなかった危険に見舞われる娘たち。
この香港映画を何度も見ている。香港映画が、奔放なエネルギーにあふれ、全編スピードとサスペンスで、あたらしい世界を切り開いた。若い女優たちも、キラキラした明るい声の光をスクリーンの中からふりまいていた。
私はこの映画で、林 青霞(ブリジット・リン)のファンになったのだった。
そういえば、この映画が作られて10年後、一条 さゆりが、この映画に出た林 青霞(ブリジット・リン)の妖しい魅力にふれていたことを思い出す。そのエッセイを読んでから、さらに10年がたっている。
そのブリジットも、もう引退している。
古ビデオ1本。またブリジット・リンにめぐりあえたような気がしてうれしかった。