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 私は夏が好きだった。どうして、夏が好きなのか考えてみると、この季節は女が美しく見えるせいで、暑さが好きというわけではない。

 あまり見かけなくなったが、面長で、目鼻だちのあざやかな明るい顔。すらりとした背丈、昔でいう小股の切れあがった女。浮世絵で見る江戸の美人の典型。
 最近の女優では、水川 ナントカ。 ご本人は和装したこともないらしいが、ほんとうはああいう女性が浴衣を着れば最高の美女になる。

 夏の美人といえば、髪あげをした襟あしの美しさ、薄衣の裾からもれる素足の美しさ。

 古い劇作家の木村 錦花が、こういう美人こそ夏の風物詩なのだという意味のことを書いていて、共感したことをおぼえている。

 江戸の芸者は、寒中でも、足袋をはかず、素足に紅をさしていたらしい。こうした江戸前の粋で、辰巳芸者が侠名をうたわれた。

 今の世の中では、足の指にまでネイルアートという女の子もめずらしくない。しかし、江戸前の粋なぞは、あり得ようはずもない。

 いまの私は夏があまり好きではなくなっている。