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 去年の9月。ロシアが急速な経済発展をつづけ、まさに世界経済を牽引するとみられてきた時期。日本とロシア間に、光海底ケーブル(RJCN)が開通した。

 このRJCNは、新潟の直江津と、ロステレコムのナホトカをむすぶ大容量の光海底ケーブル。南北の2ルート。それぞれの長さ、約900キロメートル。伝送容量は、それぞれのルートが、640Gbpsという。

 これまで使われてきたインド洋経由、ないしはアメリカ経由のルートに較べて、新ルートでは、東京=ヨーロッパ間を最短ルートでむすぶことになる。

 光海底ケーブルについて何も知らない私がこんなことを記録しておくのは、なんともおかしいことに違いない。遠い将来、誰かがこれを読んで思うかも知れない。
 なんだ、21世紀の老作家はこんなことぐらいに驚いていたのか、と。

 私は、評伝『ルイ・ジュヴェ』(第二部/第1章)で、1925年にルイ・ジュヴェが書いたエッセイをとりあげた。ほんの少し前の1923年という時代を、ジュヴェがどう見ていたか。
 その一節に・・・・

    ドイツでは「カリガリ博士」、ロシアでは「戦艦ポチョムキン」。チャーリー・チャプリンは栄光のさなかにある。(中略)真空管ラジオを発明したマルコーニは無線電信網が世界をおおうと宣言し、あまり知られていない学者、ポール・ランジュヴァンの海底通信の研究。
    オランダのニールス・ボーアは核の構造についての研究でノーベル章を受けた。ジャーナリズムは、ツタンカーメンの発掘、ヴァルター・ラテナウの暗殺、レーニンの引退、ムッソリーニのローマ進軍の報道に忙殺されている。

 と書いている。

 ジュヴェが、こういうふうに「過去」を回想したことは一度もない。1923年、彼はコポオと別れ、自分の劇場で旗揚げをする。なんでもない事実の羅列に、じつはジュヴェの痛切な感慨、自負が秘められている(と、私は見たのだった。)
 私が光海底ケーブルについて書きとめておくのは、そんな意味はない。ただし、こんなことまでブログに書いておく。ある人への深い感謝の想いをこめて。