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 雨が降っている。春雨。
 昔の映画のDVDを見ている。

     春雨や 火燵の外へ足を出し         小西 来山

 おなじ来山に、

     春雨や 降とも知らず牛の目に

 という句がある。昔、春雨が降る道路を、牛のひくオワイ屋の車が通って行くと、タプンタプンと音がしていた。その牛の大きな目が、霧のような雨滴に濡れていたことを思い出す。もう、こんな風景は日本のどこにもなくなっているだろう。
 ところで春雨といえば、やはり蕪村をあげなければならない。

     春雨や 小磯の小貝ぬるるほど

 こういう詩情も、もはや私たちが失ったものかも知れない。

     春雨や 暮れなんとして今日もあり

 昔の映画などを見て過ごしていると、この句にはなぜか別種の趣きが感じられる。

 1926年。
 スウェーデンからきたグレタ・ガルボという女優が、「メトロ・ゴールドウィン」で、第一回作品として、ブラスコ・イヴァニェズの原作の映画化「激流」The Torrent(モンタ・ベル監督)に出た。
 まだ、誰ひとり知らない。グレタ・ガルボが、ハリウッドの黄金期を作ることを。