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 『出世景清』のなかで、獄につながれた「景清」を「十蔵」がおとしめる。「景清」はあまりの雑言(ぞうごん)に「二言と吐かば掴み挫いで捨てんず」と睨みつける。

    十蔵かんらかんらと笑ひ、「其の縛(いましめ)にあひながら某(それがし)をつかまんと。腕無しのふりづんばい、片腹痛し事をかし。幸ひ此の比(ごろ)ケンピキ痛きに、ちつとつかんでもらひたし」と空うそぶいてぞ居たりける。

 ケンピキの「ケン」は、病だれに玄。「ピキ」は、癖。肩凝りという。「十蔵」は、小手も固く縛(いましめ)られている「景清」を嘲っている。
 古語を知らぬかなしさ、この「ふりづんばい」がわからない。

 けれども、かんらかんらと笑うとか、「片腹痛い」とあざけるといった表現は、私の内部に生きている。少年時代に読みふけった講談や落語、あるいは歌舞伎のおかげで、そんなことばが心に残ったらしい。

 若い頃は他人の批評が気になるもので――自作があしざまに批評されたとき――かんらかんらと打ち笑ひ、よくもよくも、腕無しのふりづんばいが、某(それがし)の作を罵りおったナ。片腹痛い、とはこのことだわ。
 と、空うそぶいているうちに悪評など気にならなくなった。

 残念ながら、自作に使ったことは一度もない。作中人物がかんらかんらと笑いつつ、「うぬめら、片腹痛いわ」とドスのきいたセリフを吐くや、腥血淋漓、悪人輩(バラ)をバラリンズンとまっこうからたけわり。

 もう、遅すぎるか。ムフフフ。(笑)