イリノイ州立大学の医学研究チームの報告。
「ステイン・アライヴ」のメロディーにあわせて、心臓マッサージを行うのが、いちばん効果的という。
アメリカの心臓協会は、心肺機能蘇生時にほどこす心臓マッサージでは、1分間に、100回のペースで、胸部を圧迫することを推奨しているが、「ステイン・アライヴ」のメロディーにあわせると、ほぼ このペースになるとか。
私は、こういうトリヴィアをみると、すぐにメモしたくなる。
このニュースには、別の意味で関心をもった。
ジョン・トラボルタ主演の映画、「ステイン・アライヴ」は、日本でも公開されているが、原作を翻訳したのは――私であった。
出版社側は、日本でもヒットした「サタデイナイト・フィーバー」の続編なので、翻訳すれば売れると思ったのかも知れない。しかし、映画の公開日時が迫っていた。まともな翻訳家なら、誰もこんなノベライズものの翻訳を引き受けない。
映画の公開まで、せいぜい2週間やっと。そんなせっぱつまった状況で、翻訳を引きうける物好きはいないだろう。そこで、窮余の一策、中田 耕治に押しつけようということだったのではないか、
私は、その日の夜から「山ノ上」にカンヅメになった。ホテルにはワープロを届けてもらって、部屋に入った瞬間から、夜を日についで仕事をつづけ、予定より数時間遅れで、翻訳を終えた。さすがに疲れた。
試写で「ステイン・アライヴ」を見た。ジョン・トラボルタの相手をやった女優さんはブロードウェイ・ミュージカルの舞台女優だったが、まるで魅力のない、はっきりいえばいやなタイプの女優で、映画を見ながら、この映画は当たらないだろうなあ、と思った。当たりそうもない映画の原作を訳すほど味気ないものはない。早く訳してしまおう、と思いながら訳していた。
ある時期から、年に一冊のペースで、翻訳をすることにきめていた。翻訳以外の仕事がふえていた。翻訳だけではもの足りなくなっていた。それでも翻訳はつづけていたかったので、毎年一冊だけでも翻訳をつづけたほうがいい。
「ステイン・アライヴ」以後、私はこのペースで翻訳をつづけてきた。
編集者たちも、私を「山ノ上」にカンヅメにしてしまえば、期日までに間に合うと安心していたらしい。
「ステイン・アライヴ」のメロディーにあわせながら、翻訳をつづけたわけではなかったが。