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 私の内部に巣くっている一種の固定観念がある。それは芸術家の運命に関する見方だが、他人の眼から見て、たわいもないことかも知れない。
 ある人は自分の運命にしたがって新しい仕事にのぞみ、うまく成功する。ところが、別の人は一度そこで経験したことにおぞ毛をふるって寄りつかなくなったり、あるいは、今度こそ事情は違っているかも知れないと期待に胸をはずませながら、失敗する。ときには何度も何度も性懲りもなくくり返して、最後には幻滅しながらあきらめてしまう。それはなぜなのか。

 抽象的な議論ではない。きわめて具体的なこと、あえていえば、芸術を志す人間の生きかたに関して。
 この問題は・・・ある人には才能があって、別の人にはその才能がないということにかかわってくる。なぜ、ある人は才能に恵まれているのか。それにひきかえ、なぜ、私はそういう才能をもっていないのか。

 私は、いつもこういう問題を考えつづけてきたような気がする。