現在、私たちは未曾有の不況に見舞われている。(麻生首相にいわせれば、「みぞゆう」と読むらしいが。)
100年に一度の非常事態という。(グリンスパンの発言という。)私のように、世界の金融、経済の動きに無関係な人間でも、100年に一度の金融危機ならば、大きな関心をもってもおかしくない。
さる10月27日、テレビで市況を見ていた。
凄いね。何も知らない私の眼にも、この日の株式市場の暴落は、ただごとならぬものに見えた。「日経平均株価」は、取引開始直後、あっさり最安値を更新した。うわぁー、なんだなんだ、なんなんだ! 一時、7486円を割り込んだぜ。
私はマラソンの中継が好きで、かならず見ることにしているのだが、マラソンを見ているよりも、ずっとおもしろかった。この日、バブル崩壊期(’03.4.28)の最安値、7603円を割り込んでしまった。1982年11月以来、26年ぶりの水準という。 おいおい、冗談じゃないぜ。どうなるんだい。
昔のSF映画、「禁断の惑星」に出てくる、わけのわからない怪物が、人類に襲いかかるシーンを見るような気がした。(ついでに書いておくと、この映画はSF映画のプロトタイプのひとつ。ウォルター・ピジョンが、アカデミー賞なみのいい演技をしていた。アン・フランシスは、少し肥り気味だったが、若くて肉感的だったなあ。)
けっきょく、この日は、前の週末の終値から80円72銭安。
この日、外国為替の円相場は、アメリカ、ヨーロッパの景気減速を警戒して、円高が急伸、1ドル=93円63 64銭で取引されている。
ゲッ、円高だってさ。ほんまかいな。本気かよ。
わけもわからずに、円がやたらに高く高く高くなっちまった。
昭和初年、いわゆる「大不況」の余波を受けて、父が失業したことを思い出す。彼は三日間、東京じゅうをかけずりまわって仕事を探したらしい。当時としてはめずらしい英文の速記者(ステノグラファー)だったので、面接に行った「ロイヤル・ダッチ・シェル」にひろわれた。やがて地方支店の速記者、翻訳者になった。本人にすれば、都落ちの思いがあったに違いない。
幼年時代の私は、何度も「不況」(デプレッション)ということばを聞かされて育った。何だかわからないが、「不況」というおそろしい生きものが私たちのすぐうしろに立っているような気がした。幼い私にとって「不況」は落語の「ムル」のようなものだった。この「不況」を私なりに翻訳すれば、「ムル」になる。
虎、狼よりも「ムル」がこわい。
最近の金融不安は、私のようなノン・ワーキング・プア(ルンペン・プロレタリア)には関係がないが、この1カ月、中国、香港の株式市場の低落ぶりをじっくり見ていた。
つい数カ月前まで、資産総額が1211億元で、中国のトップだった女性実業家は、資産がなんと181億元に縮少したという。
おなじく個人資産、430億元(約6020億円)で、今年の富豪のトップが、株価の違法な操作で司直の捜査を受けているそうな。
いやぁ、「ムル」はこわいなあ。
「ルンペン・プロレタリア」ということばはなくなったが、「ムル」はこわい。私流に翻訳すれば、さしづめ(貧富の格差)になる。