自分が一年前のことをおぼえている、などというのは、まるで信じられない。なにしろ「後期高齢者」だからねえ。(この「後期高齢者」には、「クソGG」か「くたばれご長寿」とルビをふること。)自慢じゃないが、いまや、私はなんでも片ッ端から忘れてしまうのが特技。(笑)
どうかすると、いきなり過去の1シーンが、ゆらりと立ちあがってくる。
1年前の8月、やたらに暑い日だったが・・・横浜の「そごう」で「キスリング展」を見た。キスリングは好きだが、ほんとうにいい作品はわずかしかない。このときの印象は、HPに書いた。
最近、キスリングのヌードが頭のなかに立ちはだかってきた。
暗い色彩の花模様のクッションに、放心したようなまなざしの若い娘がつややかな裸身をさらしている。
その瞳は、何を訴えているのか。
この絵を見ただけで、この絵を見にきてよかったと思った。
アルレッテイ。
「天井桟敷の人々」、「北ホテル」、「悪魔が夜来る」の女優。
戦後はじめて「天井桟敷の人々」の「ガランス」を見たとき、あまり関心をもたなかった。それほど美貌とは思えないし、なによりも中年にさしかかっていた。
キスリングがアルレッテイのヌードを描いている!
それも、20代のわかわかしい裸身だった。ベッドに寝そべっているだけのポーズで、顔、とくに眼が、まるっきりキスリングの美女まるだしだが、まさに「戦後」(1920年代)のおんなが、ベッドにデンと寝そべっている。
おなじキスリングが、もう一つの「戦後」(1950年代)に描いた女優、マドレーヌ・ソローニュ(川端 康成が買ったため、日本にもたらされた)が、どこか憂愁を漂わせているのに、アルレッテイのヌードは、清潔な肢体に、どこか奔放なエロティシズムがあふれている。このヌードはすばらしい。
もう一枚は「赤毛のヌード」。
このポーズも、アルレッテイのヌードとほとんどおなじだが、これがまたすばらしい。あとで「カタログ」の解説を読んだが、通りいっぺんのものであきれた。