人生には、ひそかに願っていても叶わぬことが多い。
『四谷怪談』の「穏亡堀」、戸板返しの実際の動きを見たかった。むろん、舞台は見ている。しかし、「伊右衛門」と「直助権兵衛」のやりとりのあいだに、奈落の黒子がどう動くのか。今の劇場ならコンピューター処理で、何もかもできるのかも知れない。
「や、わりゃお岩、さては血迷うたな」
大ドロドロで、戸板がひっくり返される。
このあと、「旦那さま、クスリ下せえ」。
「伊右衛門」が、「またも、死霊の・・」
ドロドロに重なって、昔ならシューッと白いけむりになる。掛け煙硝。
私がひそかに願っていたこと。
戸板返しの実際の動きを奈落から見たかった。できれば、一度でいいからこういう芝居を演出してみたかったから。
私はたくさんのことを実現できずにくたばるだろう。残念だが仕方がない。