若い頃、いちばん痛烈な(と思われた)批判は、
「・・・・なんか文学じゃないよ」
といういいかただった。ひどく便利な批評用語で、たとえば「永井 荷風の『勲章』なんか文学じゃないよ」というふうに使う。どうして文学ではないのか、また、(その人のいう)文学がどういうものなのか、まったく説明はない。こういう批評が「文学」の名に値するかどうか、そうした検証もない。
ここに見られるものは、じつに単純な概括であり、その背後にひそむ軽蔑と、ひどい傲慢である。それがカッコよく見えたものだ。
私は、こういうことを口にしない。むろん、こういう発言をしたくなることはある。
そういうときは、
「・・・・なんかいまの文学じゃないよ」
といえばいい。これまた便利な批評用語のひとつ。
「中田 耕治なんかいまの文学者じゃないよ」
ときどき考える。おれって、ひょっとすると、江戸のもの書きのなれの果てじゃねえかなあ。