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 晩年の芥川 龍之介が、後輩の久保田 万太郎に、自作の俳句を見せた。久保田 万太郎は、すでに傘雨宗匠として知られていた。

    うすうすと曇りそめけり 星月夜

 傘雨宗匠はこの句をよしとした。

 数日後、龍之介先生は句をあらためて、

    冷えびえと曇り立ちけり 星月夜

 これを傘雨宗匠にしめした。傘雨宗匠は頭をふって、「いけません」といった。

 龍之介先生は後句を捨てなかった。万太郎は、ついにこの句を認めなかった。

 前句と後句のどちらがいいか。私には判定がつかない。「冷えびえと」のほうは、晴れから曇りにうつろう時間の経過を詠み込んだ感じがいいが、「曇り立ち」では理がかちすぎるような気がする。一方、「うすうすと」の句は、宛然、傘雨宗匠の世界で、それがかえって気に入らない。
 みなさんはどう思うだろうか。