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--旧作句集--

 こんなものを発表するのはおこがましいのだが、ある時期、うろうろしていた私の姿があらわれているような気がする。

    春なれや 青楼残るいなかまち

 もう、どこの町だったかおぼえていない。ひどく古びた木造建築の前を歩いて、ふと、入口の破風作りに気がついた。ほう、ここに遊廓があったのか。

 友人の竹内 紀吉君と会う。すぐに自分の書きたい小説のこと、作家の誰かれのこと、最近読んだ作品のことを話してくれる。
 夏だったのか。「時の過ぎ行きのあわれさよ」と前書きして、
    炎天下 一寸の虫のうずくまる

    行水や 手首とりまく白き肌

 これもどこで詠んだものか、おぼえていない。

    日ざかりを 恐竜展にいそぎけり

    大ホールに 恐竜をさす手の扇子

    フラッシュに「恐竜」ほえて 子らの夏

    白日の夏 恐竜の群れほえ 動く

 これは、幕張メッセの「恐竜展」。私は恐竜が好きで、「恐竜展」が開催されればかならず見に行くのだった。

    夏の日の彼方 はるかに思うこと

    炎天にきて きらめくや美女ひとり

    雲はやく動いて 昼の蝉しぐれ

    一天にわかに かき曇りつつ蝉の声

 この年、初秋、伊那は高遠、平家の落人の里に行く。ある医師の先生の別荘に遊びに行った。この先生のおかげで、いのちびろいをしたのだった。

    日まわりの 葉の萎れゐる線路わき

    秋空と 路肩頽れし甲斐路かな

    停止信号に 庚申塚や ダムの秋

    山路きて 平丞相の墓と会う

    秋日ざし 絵島の墓というを見る

 吉沢正英、集中治療室に入るという。暗澹たる思いがあった。

    大手術 風の動かぬ残暑の日

 竹内 紀吉君に招かれて、

    山々に風立つ秋や 「煕吉庵」

    内房の曇り空には 鷹の翔ぶ

    秋雨に カラスの翔ぶや 蔵の町

 この年の私はよく旅をしていた。山に登らなくなっていたせいもある。
 磐梯熱海。志田浜から雨にけむる猪苗代湖の一部を見る。

    湖に紅葉のけむる午後なりき

    時雨るるや その名も中山峠とか

    落ち葉舞う 真昼に 餌を鳩にやる