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 人生相談。40代の女性。
  最近、離婚しました。原因は私の不倫のため。高校生、中学生の子どもは連れて出ることはできませんでした。
  夫はまじめで、物足りなさは感じながらも、ずっと一緒だと思っていました。しかし、仕事で知り合った20歳年下の男性に心のよりどころを求めるようになったのです。不倫発覚後、夫は私が戻るのを待ってくれました、私も努力したつもりですが、家庭に徐々に居場所がなくなりました。
  男性は今も、私との結婚を真剣に考えてくれています。彼の両親は彼の気持ちが覚めるのを静かに見守っているようです。年齢差を考えると、結婚は難しいのではと自分でも思います。
  自分の心の弱さゆえ、すべてを失ってしまいました。毎日、後悔して暮らしています。
  子どもとは制限なしに会えますが、申し訳ないという思いです。一緒に住めない子どもに、私ができるのは働いて金銭援助をすること。そのため彼との関係をきっぱり解消しようと考えても、気持ちは決まりません。

 土井 幸代(弁護士)が答えている。
 不倫の非はあるものの、離婚に至った経緯を分析・反省している手紙から、あなたが真摯に身を処してきたことがわかる。それでも悔いが残るのは、子どもたちと一緒に住めない寂しさからでしょうか。
 土井 幸代の答えは、条理をつくしたものだった。論点は、だいたい二つ。
 1) 子どもも、高校生、中学生ともなれば、親の行動の善悪を冷静に判断する。母親が第二の人生を充実して生きる姿を見れば、親の離婚を貴重な人生経験として、成長の糧としてくれるだろう。

 2) 彼との縁は、結論をいそがず、成り行きにまかせてはどうか。結婚するかどうかは別として「素直な気持ち」で、彼との愛がほんものかどうか見守ったほうがいい。
 私ならどう答えるだろうか。

 私も、この女性が離婚に至った経緯を冷静に書いていると判断する。
 だが、高校生、中学生の子どもたちが、母親の行動を冷静に見ているかどうか。夫が傷ついたように、子どもたちも(口には出さないにしても)傷ついている。
 子どもたちがずっとあとになって、「離婚するなんて、ひどい母親だったよなあ。でも、あのときは母親としてもどうしようもなかったのだろう」と思うようになるかもしれない。しかし、母親をそう簡単に許すかどうか。
 きみは、夫を傷つけた。それにもまして子どもたちを傷つけた。むろん、自分自身も傷ついている。
 私の見方では・・・「自分の心の弱さゆえ、すべてを失ってしまいました。毎日、後悔して暮らしています」というのは無用の反省なのだ。

 きみはほんとうにすべてを失ってしまったのか。
 彼との愛がほんものかどうか、などと反省する必要はない。ほんものの愛なのだ。だからこそ、彼はきみとの結婚を真剣に考えている。
 ただし、結婚はしないほうがいい。
 「彼との縁は、結論をいそがず、成り行きにまかせてはどうか」というのではない。成り行きまかせというのは、ずるずるべったりに現在の関係を続けてゆくだけのことだ。
 そうではなく、はっきり結婚しないという意志的、ポジティヴな生きかたを選択する。どうしても結婚したいと思ってから結婚届を出せばすむ。
 年齢差を考えると結婚は難しいのではないか、などと考えないこと。
 あと20年もたって、夫がまだ40代、その夫にとってかけがえのない魅力ある女性でいよう、と考える。このほうが、ずっとむずかしい。そのむずかしさをわれと我が身にひきうける。それが、すべての人の傷を癒すだろう。
 不倫などと考えないこと。くよくよと年齢差から結婚は難しいのではないか、などと考えてどうするのか。
 レイモンド・チャンドラーのように、年齢のちがう女性と結婚して、生涯、忠実だった人もいる。夫人が、どれほど魅力があったか。アナイス・ニンのように、70代になっても、事実上の夫、ポールと琴瑟相和しながら、別の「恋人」とも愛しあっていた女性もいる。それは、不倫などというものではない。

 熟年離婚は新しい一歩なのだ。愛する者はみな孤独。そう覚悟すれば少しも後悔する必要はない。