神田、駿河台。
昭和初期の高座で、駿河台を「あたり台」といった落語があったらしい。実際には聞いたことはない。最近、引退してしまった円楽ではなく、たしか、先代の三遊亭 円楽がやった。
時は明治20年代。自動車もない時代。人力車が走っていた。
客は、ネコ。ネコといっても動物の猫ではない。芸妓のこと。車夫が行き先を聞く。芸者の世界にかぎったことではないが、忌みことばがある。車上のお姐さんが、行き先をいわない。
「わからないかねえ。ほら、神田の高いところだよ」
車夫はいろいろと土地の名前をあげるのだが、お姐さんもいろいろと手真似でせつめいしようとする。
とうとう姐さんが、じれったがって、
「車屋のくせに、ほんと、カンがにぶいねえ。ほら、鎌倉河岸がら右に入って、ずんずん行くと・・」
「ああ、ヤソのお寺のあるあたりですかい」
「そっちじゃないの、右にいったら、こんどは左」
さあ、わからない。
最後になって、お姐さん、ハタと膝を打って、
「ほら、アタリ台だよ!」
車屋が、なるほどと合点して、
「ああ、お出の水の下でござんすか」
この落語、新橋か赤坂の芸者の実話という。
「する」(損をする)という言葉を避ける。お茶を「お出花」、「上がり花」という。この二つを使った落語。