667

そういえば、其 角に、

   十五から 酒を呑み出て けふの月

 という句がある。

 『北窓瑣談』の著者は、

   十五に春情きざせるをいひ取り、酒に全盛を尽し、けふの月五文字に零落の姿をうつす。絶妙の作といふべしと評する。

 其 角はこの批評をどう読んだのか。

   朝ごみや 月雪うすき 酒の味

 チェッ、にくいね、このひと。
 いまの感覚では「朝ごみ」といっても、朝のうちに分別ゴミを回収に出すぐらいしか想像できないだろう。
 むろん、こういう酒の味は私の世代では経験がない。
 いい時代だったんだろうなあ。其 角さんがうらやましい。

 私は其 角のようなえらい詩人ではないし、酒に全盛を尽すような風流を知らない。まして、「朝ごみ」の酒の味にも無縁だった。しかし、けふの月に零落の姿をうつしていることはおなじだろう。
 これもあわれ、というべきか。