匂い。
おまえの髪の熱い炉のなかに 私は嗅ぐ、阿片と砂糖といりまじった タバコの匂いを。おまえの髪の夜のなかに 私は見る、熱帯の蒼穹の 無限が 光り輝くのを。おまえの髪の うぶ毛のはえている岸辺に 私は酔う、瀝青と 麝香と 椰子油との からみあう薫香に。
ボードレール。黒い「恋人」ジャンヌの匂い。
こういう匂いなら、いくらかでも想像できる。
だが、私たちは酒や、マリワナ、コケインの匂いを表現できるだろうか。むろん、できないことはない。だが、「雅歌」や、『巴里の悒鬱』のようにはもはや誰にも表現できないだろう。
私たちは、もはや熱帯の蒼穹の無限が光り輝くのを見ることはないかも知れない。