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 匂い。

 旧約聖書の雅歌のなかに「なんぢの衣裳の香気はレバノンの香気のごとし」とある。これは「わが妹、わが花嫁」について詠まれている。

「わが妹よ、わが花嫁よ、なんじは閉じたる園、閉じたる水源、封じたる泉のごとし。なんぢの園のなかに生い出づるものは、ザクロおよびもろもろの佳果、またコペル、ナルダの草、番紅花、ショーブ、桂枝、さまざまの乳香の木、さらに没薬(もつやく)、芦茴、いっさいの高貴な香物なり。なんじは園の泉水、生ける水の井、レバノンより出づる流水なり。北風よ起これ、南風よ来たれ、わが園を吹いてその香気をあげよ」

 きっと、すばらしい匂いなのだろう。

 最近のレバノン、さらにパレスチナ情勢を考えるとき、ふと、この雅歌の一節が心をかすめる。世界最古の匂いの表現という。

 コペル、ナルダの草とはどういう草なのか。どういう匂いなのか。