ふと思い出す。詩の一節というか、ある夜明け、眼の裏に映った夢の残像。
ほとんど裸の女
その足が 本を踏みつけている
片隅に <ひとで>
マン・レイの映画、「ひとで」のオープニング・シーン。原作はロベール・デスノス。1924年、当時はまだ無声映画の時代だった。映画という表現形式に、若い芸術家、詩人たちは大きな可能性を見ていた。
「アンダルシアの犬」、「秋のメランコリー」、「貝殻と血」。
若い芸術家、詩人たちにとっては幸福な時代だったに違いない。
世界の終末が近いと信じた中世の修道僧たちは、まなじりを決して、必死に「悔い改めよ」と叫びながら、街路を走りまわった。その信条、心情に一点の曇りもなかったに違いない。
若き日のジェルメーヌ・デュラック、ジャン・エプスタン、マルセル・レルビエ、キルサノフ、マン・レイたちも、中世の修道僧たちとおなじような表情をしていたかも知れない。
今の私にはそれが羨ましい。