評伝『ルイ・ジュヴェ』を書いていた時期、毎日、彼の演出した舞台の写真を見ていた。
実際に舞台を見たことがないのだから、せいぜい写真でも眺めて、彼の演出を想像するしかなかった。
『シャイヨの狂女』を演出したとき、ジュヴェは新聞にエッセイを書いた。
読者のみなさんのなかには、衣裳ダンスや、屋根裏部屋に、四、五十年も前の、1895年から1910年あたりのご婦人がたの衣裳とか、アクセサリーなどをお持ちか、ご所蔵の方をご存知の人もいらっしゃると思います。
お母さんがた、お祖母さんがたがお召しになったドレスなど、レース、リボン、スパンコールなどのついたタフタや、シルクのローブ、ガチョウの羽飾り、造花をあしらったハット、インレイの網タイツ、ハンドバッグ、アンクルブーツ、要するに、当時のファッションなら何でもかまいません。今からでもお送りいただければ、ジロドーの芝居に出る役者たちに着せてやれます。傷んでいても結構です。むしろ大歓迎なのです。
翌日、ジュヴェの劇場に、おびただしい人たちが集まってきた。さまざまな衣裳や、宝石、扇、アクセサリーを手にして……
戦後すぐの疲弊しきったパリで、ジロドーの芝居を演出しようとしていたジュヴェに私は感動していた。