1950〈少年時代 36〉

塩釜のドサまわり。有名な芝居をかけるわけではないし、ストーリーも適当な芝居をつなぎあわせて、その場しのぎのドサまわりだったに違いない。
玄冶店(げんやだな)らしい芝居も、私の記憶にぼんやり残っている。

お富という美しい女が海岸で、これも美男の若旦那、与三郎と出会う。
この与三郎が、「三十四ケ所の刀疵、これも誰ゆえお富ゆえ」という「切られ与三」になって、お富と再会する。これが横櫛のお富で、蝙蝠安がからんでくる。

「額をかけて七十五針、怱身の疵に色恋も、さった峠の、崖っぷち」
のゆすりや、大詰め、畜生塚の場で、出刃を逆手の蝙蝠安殺しなど、子どもながら、すごいなあ、と見ていた。

夏場は怪談の演目を出す。これが私を恐怖に陥れた。ストーリーはよくわからなかったが芝居の仕組みがおどろおどろしい。さらには、責め道具、仕掛けもののお化け芝居なので、恐ろしさのあまり畳につっぷして、舞台を見ないようにしてふるえていた。