1870

何かやり残したことがあると気になって仕方がない。昨日、市立美術館に行ったが、休館日だった。たしかめてから出かけるべきだったのに。

翌日、美術館にたどり着いて、「初期浮世絵から北斎・広重まで」を見た。アメリカ人、メアリー・エインズワースのコレクション。
オバーリン大学・アレン・メモリアル美術館所蔵。メアリー(1867~1950)が集めた1500点のなかから、今回、200点を展示したもの。
浮世絵に関して、ほとんど知識のない私にとっても貴重に思える作品があった。あらためて、春信、歌麿の女たちの魅力に惹かれた。

ほかにすることもないので、サッシャ・ギトリの「あなたの目になりたい」(1933年)を見た。サッシャ・ギトリ、ミア・パレッリ。ジュヌヴィエーヴ・ギトリ。そしてマルグリート・モレノ。

じつは、拙著、「ルイ・ジュヴェ」のなかで――現在、マルグリート・モレノの映画を見る機会はほとんどないと書いた。当時は、そんなことを書いたのだが、マルグリート・モレノの映画がDVD化されたのでこの映画が見られるようになった。
ミアは、コクトオの「美女と野獣」に「サンドリオン」の姉の役で出ているが、33年当時は、「娘役」(ジューヌ・プレミエール)だったことがわかる。もう一つ、映画の途中、キャバレのシーンに物真似芸人が出てくる。あっと思った。

この芸人が、なんとルイ・ジュヴェの詩の朗読をパロディーしている。ジュヴェそっくり。物真似されるくらいだから、逆に、ジュヴェの人気が高かったことがわかる。この芸人はさらに、シャルル・デュラン、ミッシェル・シモンの物真似。おそらく、サッシャ・ギトリがこの三人のピエ・ド・ネェをやってみせたのか。この芸人の名はわからない。

こんなつまらないシーンを見て、当時のことをいろいろと想像する。

私の好きなTVの番組の一つは、「世界 なぜそこに日本人」。

今回は――アフリカ、マリ共和国、北部の寒村、マフェレニ村。電気も水道もない村に、村上 一枝という老婦人が住んでいる。78歳。

1940年、岩手県に生まれた。父は歯科医。無医村に巡回して無料で診察する医師だった。父の影響で、1958年、日本歯科大に入学。卒業後、結婚、歯科医になった。

38歳のとき、異常な激痛に襲われ診察を受けて、結核性子宮内膜炎、卵巣結核と診断され、子宮、卵巣を全摘。子どもの産めないからだになった。やがて、離婚した。

44歳で、小児歯科専門の医院をはじめ、年収、4000万円。

年に1度、海外旅行に出かける。たまたまサハラ砂漠観光に行ったとき、マリ共和国に立ち寄った。ここで――子どもが重い病気なのに病院に行くことができず、ただ死を待つばかりの現実を見た。
当時、マリの幼児の死亡率は高く、4人に1人が死亡していた。これを知った村上さんは、自分の診療所を売却、単身、マリにわたった。

これまでに、小学校、中学校を20校設立、助産院を11棟、設立した。現在、子どもの死亡率は、9人に1人になっている、という。

こういう日本人を見ると、私は感動する。こういう人生もあるのだ、と思う。むろん、おのれの人生とひき較べてだが。

この夜、寝る前に、新しいイヤフォンで、キャサリン・マクフィーを聞く。「I fall in love too easily」。ずっと印象がよくなった。前に聞いたときは、クラシック・ジャズのアレンジとして、それほどデキはよくないような気がした。久しぶりに聞きなおして、なぜキャサリンがジャズ・クラシックの歌唱法に戻ったのか少しわかったような気がする。