たった一度だけだが、ファッション・モデルになったことがある。
「面白半分」1976年9月号。開高 健 編集。
雑誌のタイトルのように、面白半分で、写真を撮ってもらった。
雑文つきで。
パリを歩いていると、やはり眼につくのはパリジェンヌの美しさだった。むろん、美女も多いのだが、それほど美貌でなくても、服装の感覚がすばらしい女たちも多い。
こういう感覚は、シックなもので、ああいう洗練を見てしまうと、どうしてああもみごとな着こなしができるのだろうと不思議な気分におそわれる。男のおしゃれも、本質的におなじだろう。自分のよさをわるびれずに表現すること、そこに男の個性がにじみ出す。
もともと、男のファッションなど、まったく無縁に過ごしてきた。およそ無趣味で、せいぜい山歩きぐらい。それも、誰もがめざす有名な山よりは、わざわざ誰も知らない山を探して歩くような、ヤボな登山者だった。
山をおりてきたとき、村人が私に、
「営林署の方ですか、ご苦労さんです」
と、挨拶されたことがある。
開高 健が面白半分にファッション写真のモデルにそんなワースト・ドレッサーを選んだのだった。
あの頃はヤボはヤボなりに楽しかったな、と思う。