歳末、ピーター・チャン監督の「ラヴソング」を見た。中国の改革開放が始まった時期、大陸から香港に出稼ぎにきた若者と、少し前に香港にきた女の出会いと別れ、再会を描いたもの。背景に、テレサ・テンの歌が流れる。「黎明」(レオン・ライ)と「曼玉」(マギ-・チャン)主演。私の好きな映画だった。
マギ-・チャンは、私の好きな映画女優だった。
その後で、「李安」(アン・リ-)の「ラスト、コ-ション」LUST,CAUTION(色・戒)を見た。1942年、上海。汪 精衛の南京政府が成立した時期。香港で抗日運動をはじめた大学生たちが、南京政府の高官の暗殺を計画する。戦争の過酷な時代に翻弄された青春を描いている。封切られた当時見て強い印象を受けたが、その内容はほとんど忘れてしまった。あらためて見直して、いい映画だと思った。
主演は「梁 朝偉」(トニ-・レオン)と「湯唯」(タン・ウェイ)。このふたりのコイタス・シ-ンは、まさしく香港映画が勢いをもっていた時代に重なる。「湯唯」も美少女だったが、香港映画ではその美質が生かせず、残念ながら女優として伸びなかった。
アン・リ-の「ラスト、コ-ション」は、私の好きな香港映画だった。「湯唯」(タン・ウェイ)は林 青霞(リン・チンジャ)と並んで、いちばん好きな美少女になった。
その後、アン・リ-はハリウッドに進出して、「推手」や「ウェディング・バンケット」などを作るが、いずれも「ラスト、コ-ション」にはおよばない。
湯唯(タン・ウェイ)のようにスクリ-ンに登場しただけでその美しさを輝かせながらその後、消えてしまったスタ-レットたち。
ジュリアン・デュヴィヴィエの映画、「わが青春のマリアンヌ」(55)で、ヒロインに起用されたマリアンヌ・ホルトという少女である。古城に飾られた美少女にあこがれた少年の前に、その肖像画にそっくりの美少女、「マリアンヌ」があらわれる。その少女は、少年が夢見た幻想なのか、それともほんとうに実在しているのか。
ハリウッドでも、1作か2作出ただけで消えてしまった美少女たちがいる。ただし、私の内面に、何かを刻みつけなから消えてしまった美少女たちにかぎるけれど。
名前が思い出せないのだが、エドワ-ド・G・ロビンソンが主演した「赤い家」という映画に出た美少女。残念なことに、この映画に出ただけで消えてしまった。
そして、「ロリ・マドンナ戦争」。
牧草地の所有権をめぐって、隣家どうしが対立して、はげしい銃撃戦になる。この「フュ-ド」に美少女がまき込まれる。この美少女の名前も思い出せないのだが、この映画だけで消えたと思った。ずっと後年に、カ-ト・ラッセルの近未来ホラ-に出ていたが、もう、かつての香気(フレグランス)は消えていた。この少女も私の記憶に鮮明に残っている。
老いさらばえて、はるかな過去の、それも1本か2本の映画に出ただけのスタ-レットを思い出す。こうなると、妄執めいたものになるが、いつか小説を書くときに、そんな美少女を頭に思い描いて書こうと思った。ただし、そんな小説を書く機会は一度もなかったのだが。