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「1946・文学的考察」で、はじめて中村 真一郎のエッセイを読んだ。私の知らない作家の名がたくさん出てくる。ずっと後年(70年代の後期だったと思う)に、もう一度、読み直してみた。そして、真一郎さんのエッセイに、ヘンリー・ミラーの名を見つけた。衝撃を受けた。
戦後すぐの時期に、中村 真一郎はヘンリー・ミラーを知っていた!
1970年代に、ある作家が、戦時中にグレアム・グリーンの「第三の男」を原書で読んでいたと書いた。私はこの作家を軽蔑した。(ここで名前はあげない。)
戦時中に、グレアム・グリーンの映画評を読んでいたというならまだしも、小説、まして「第三の男」を読んでいるはずはない。まだ、書かれていないのだから。
それにひきかえ、戦時中に中村 真一郎がヘンリー・ミラーを読んでいた、というのは、じゅうぶんに信用できる。
戦時中にグレアム・グリーンの映画評やヘンリー・ミラーの小説を読んでいた日本人は、おそらく2人。
植草 甚一と、双葉 十三郎。(植草 甚一は、戦前の上海で秘密出版された海賊版を入手したと私に語ったことがある。)
戦後すぐの中村 真一郎は植草 甚一を知らなかったはずで、フランス語版で読んでいたのではないか。大森山王の椎野 英之の家で私が見たおびただしい蔵書のなかに、ヘンリー・ミラーがあったと見ていい。
あらためて、中村 真一郎の博覧強記ぶりを思い出した。