こんな事件があった。
2013年1月、ロシア。
「ボリショイ・バレエ」の芸術監督、セルゲイ・フィーリンが、ダンサーの、ドミトリチェンコに襲われて、硫酸を顔にかけられた。この事件は、アメリカでもヨーロッパでも大きく報道されて、一般人の耳目を聳動させた事件だった。
事件の背景に何があったのか。
「ボリショイ・バレエ団」のプリマだったアンジェリーナ・ボロンソワが、芸術監督にうとまれ、「白鳥の湖」の主役から下ろされ、それ以後、すべてのレパートリーからはずされたという。事実とすれば、パワ-・ハラスメントだろう。
捜査関係者たちは、アンジェリーナが、ダンサーのドミトリチェンコに、芸術監督、セルゲイへの復讐を依頼したのではないかと疑ったらしい。
この事件を小説化するとして――
芸術監督、セルゲイ・フィーリン自身が、かつては一流のバレー・ダンサーで、数年前、当時はまだ「バレエ学校」で修行中の若いアンジェリーナ・ボロンソワに目をつけた。
セルゲイは、自分の「バレエ団」に入団させるという口実で、肉体関係を要求したが、アンジェリーナは拒否した。
やがて、アンジェリーナは、「ボリショイ・バレエ」で、頭角をあらわす。
一方、バレエの現場から引退したセルゲイ・フィーリンは、当然のように、「ボリショイ・バレエ」の芸術監督に就任した。
セルゲイは、「ボリショイ・バレエ」の改革をめざして、アンジェリーナの役をつぎつぎにアンジェリーナの同僚バレリーナ、オルガ・スミルノワに移した。
それまでアンジェリーナの「持ち役」だった「白鳥の湖」も、オルガに奪われた。
この事件の審理がつづけられるなかで、オルガがセルゲイと肉体関係をもっていたことが明るみに出る。そればかりか、ほかのプリマたち、タチアーナ・ボロチコワ、ナターリア・マリニア、マリーア・ヴィノグラードワたちが、いずれもセルゲイ・フィーリンに肉体関係を強要されたり、実際にセックスしたことが明るみに出た。
この事件を知ったとき、私はアメリカのTVドラマ、「SMASH」を見ていた。
「SMASH 2」のドラマターグ(プロット構成者)は、現実に進行しつつあるこの「ボリショイ・バレエ」事件を、さっそく利用したのかも知れない。(「ボリショイ・バレエ」事件は、13年12月結審。ドミトリチェンコは、傷害で禁固六年。犯行をそそのかしたのは、意外にも、オルガ・スミルノワと判明した。)