「戦後」、ヒルデガルドが出たハリウッド映画は、たいてい見ているはずだが、もう内容もおぼえていない。ただ、戦後のドイツ映画で、「題名のない映画」だけは、よくおぼえている。
デュヴィヴィエの「アンリエットの巴里祭」に近い映画だったので。
この「ヒルデガルド」を見てから、ヒルデガルド・ネフは、私の好きな女優になったのだった。
CDの半分は、ヒルデガルドの作詞。
ドイツ語もわからないのに、「ILLUSIONEN」という曲に感動した。
ヒルデガルドはブレヒトの「三文オペラ」の「メッキ・メッサー」も歌っている。ブレヒトの「彼女」だったロッテ・レーニャの歌で知られている。
ほかにも、たくさんのヴァーションがある。
たとえば、アメリカのサミー・ディヴィス・Jr、イギリスのマリア・ユーイング、フランスのマリアンヌ・フェイスフル。
私は、(ソヴィエト崩壊後の)ロシアのリューバ・カザルノフスカヤのカヴァーを聞いて、「メッキ・メッサー」に立ちこめるスラヴの匂いに驚いたことがある。
ヒルデガルドの歌は、なんというか、ひどく辛口な歌になっていた。なにしろ、ドイツ語がわからないのだから、私の受けた感じが間違っているかも知れない。しかし、1945年、女だてらにベルリン攻防戦に参加し、ロシア軍と戦って降伏したヒルデガルドが、「戦後」になってブレヒトを歌っている。
私はそのヒルデガルドに感動したのだった。