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2014年7月6日、この日は朝から曇っていた。
午前中に電話があった。田栗 美奈子からの電話だった。いつも明るい美奈子ちゃんの声が曇っていた。
野沢 玲子が亡くなったという。
お互いに共通の友人、青木 悦子から連絡があって、すぐに私につたえてきたのだった。私は息をのんだ。信じられない知らせだった。野沢 玲子は5月、ゴールデンウィークに異常を感じて病院で診察を受けたが、すでに残された時間はなかったらしい。

内面の深いところに、するどい痛みに似た感覚が走った。私はことばを失っていた。つづいて、悲しみが吹きあげてきた。

野沢 玲子は、私のクラスにいたひとり。ワインが好きで、ワイン関係の本を何冊も翻訳した。むろん、ワイン以外の本も。
私のクラスでの彼女の訳や、芝居のことをめぐって、記憶のいたるところに隠れている野沢 玲子の姿をさがしもとめた。

個人的に親しかったわけではない。彼女の人生についてもほとんど何も知らない。それなのに、クラスや、私の「講座」や、そのあとで、みんなといっしょに居酒屋や、喫茶店になだれ込んで、いろいろと語りあったこと。
野沢 玲子が私たちに残してくれた仕事のことなどが、どっと押し寄せてきたが、悲しみがこみあげて、何も考えられなくなっていた。  (1)