モームの「劇場」のヒロイン、名女優、「ジューリア」は、18歳で、プロデューサー(といっても、芝居に関することなら何でもこなす根っからの芝居者)「ジミー」に認められる。
「あんたは、あらゆる要素をそなえている。背丈はよし、体格はよし、顔はゴムみたいだし」
つまり、ゴムのように伸縮自在ということ。いまどきこんな褒めことばをきいたら、たいていの女優さんはいやな顔をするだろう。こんなセリフひとつにも――「ジミー」の押しのふとさが見える。ニタリとしているモームの顔も。
「とにかく、そんな面(つら)こそ、女優にゃ打ってつけなんだ。どんな表情でも見せられる。美しくさえみせられるお顔(ハス)ってもんだ。心をかすめる、ありとあらゆる感情をジカにだせる顔ときている。あのドゥーゼのもっていた面(つら)だ。昨夜のあん
た、自分じゃ気がついていねえが、そいでも、きらっきらっと、セリフが表情に出ていましたぜ」
ドゥーゼは、イタリアの名女優、「エレオノーラ・ドゥーゼ」。
ただし、ドゥーゼが「劇場」に出てくるのは、ここだけ。