ある時期まで私はアメリカ文学を勉強してきた。アメリカにも行ったことがある。そのアメリカでどこが好きかと聞かれたら、プロヴィンシァルな意味、サン・フランシスコをあげたい。
もっとも、「ニュー・オーリーンズ」や、「ボストン」のチャールズ・ストリート、「ハックルベリ・フイン」のセント・ピーターズ・バーク、たとえば「ヨクナパトゥフア」(これは架空の土地だが)などを歩いたら、アメリカの印象もずいぶん違ったものになったはずだが。
少し違ったいいかたをすれば、アメリカで美しい貞淑なブロンド娘、美しいけれど危険なまなざしをもつ、陰鬱で腹黒い女、あるいは、よく手入れされた口ひげの男たちにでも出会っていたら、私の俳句ももう少しダイナミックなものになっていたかも知れない。
サン・フランシスコ雑詠
美しき黒人娼婦よ 春の坂
春に佇つ 黒 白 黄色 夜の花
春浅く 足萎えの鳩の多きこと
シスコには春の気配と 浮浪者と
ホームレスひとり 坂の日を浴びて 春